ほぼ隔週刊けんじけん

作曲家:川井憲次に関する最新情報を集めている憲次力研究所(けんじけん)のブログです。

『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』

たか厨@けんじけんです。
今回のお題は現在公開中の『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』です。
なお何を以てネタバレとするかは人それぞれですが、「一切の予備知識を入れずに、本作を鑑賞したい」という方は、本稿は読まれないのが賢明かと思われます。ネタバレ注意!! ネタバレ注意!!

原作:ヘッドギア
監督・脚本:押井守
撮影:町田博、工藤哲也
2ndユニット監督:辻本貴則
音響効果:柴崎憲治
音響デザイン:若林和弘
出演:筧利夫真野恵里菜福士誠治太田莉菜堀本能礼、田尻茂一、しおつかこうへい、藤木義勝、千葉繁森カンナ吉田鋼太郎高島礼子ほか
上映時間:94分
公開日:2015年5月1日

今年2月に開催された『川井憲次トークライブ&ハイレゾ試聴会』(詳しいレポートはこちら)の終盤で、司会者から、本作の音楽について尋ねられた川井さんは、「『P2』(『機動警察パトレイバー 2 the Movie』)です」と手短に答えていました。
それを聞いた筆者は、少し複雑な気分になりました。
川井さんが映像のために書き下ろした音楽の中で、『P2』は五指に入るぐらい、筆者のお気に入りです。
とはいえ『P2』的な音楽が聴きたければ、それこそ『P2』を観るか、そのサントラを聴けば良いのであって、別の映画で『P2』の曲を聴きたいわけではないのです。
本作が『P2』の続編的な作品である以上、『P2』の音楽をある程度、継承するのは勿論ありです。『P2』ファンへのサービスにもなるでしょう。だからといって折角の新作なのですから『P2』に起源を持たない、曲想も新たな音楽を聴かせて欲しいというのもファンの偽らざる気持ちなわけです。
それでも押井監督の要望が「『P2』と同じ音楽にしてね」ならば、職人を自負する川井さんは、その要望に応えるであろうことも確かなわけで……。
川井さんの「『P2』です」発言から推察するに、「本作では『P2』の音楽がメロディそのままか、アレンジはされるにしろ、相当流用されるのではないか?」「『P2』の焼き直しのような音楽ばかりだったら、どうしよう?」との不安を抱えつつ、公開二日目の劇場へ足を運びました。

フタを開けてみれば、『P2』の音楽を特に濃厚に受け継いでいた曲は、しのぶと後藤田がフェンス越しに話し合うシーンに流れる『南雲しのぶのテーマ』ぐらいでしょうか。この曲は『P2』の『with Love』とほとんど変わらない印象を受けました。このメロディは、しのぶのトレードマークみたいなのものですから、必然性のある使用といえるのではないかと。
他に明確に「ああ『P2』の曲を使っている」と感じられる曲は、
・冒頭の東京の空撮映像のバックに流れる曲『凶兆』に、『P2』の『Unnatural City』のモチーフが一瞬、顔を出す。
・後藤が残した特車二課の遺産について、しのぶが語る時の曲『特車二課の遺産』は、『P2』の『Asia』のアレンジ・バージョンになっている。

の2曲でしょうか。
他には強いて挙げるなら、本作で、新たに登場した柘植の信奉者たちと戦闘ヘリ・グレイゴーストに付けられた、弦楽器による「ザンザンザン……」という刻みつけるようなメロディの曲。この曲には『P2』といえば有名な(笑)「ゴッゴッゴッ……」という例の楽曲の影が確かに感じられはします。しかし雰囲気を継承してはいますが、『P2』ほどは重たくなく、コーラスなどを加えつつ、曲の展開も活劇寄りで、『P2』とはまた違った色合いの楽曲に仕上がっています。ですから『P2』を意識した曲ではあるでしょうが、先に挙げた3曲ほどには濃厚に「『P2』だなー」とは感じませんでした。
それ以外の曲は、『P2』に由来を持たない新たな曲想の曲だったといっても良いでしょう。
……川井さんの口ぶりから「6〜7割ぐらいは『P2』っぽい曲かな〜」と覚悟していたので、これは嬉しい裏切りでした。
その中でも特に筆者に印象的だったのは、
・キー・キャラクターである灰原零のために書き下ろされた、むせび泣くような弦の響きが耳に残る、ミステリアスな匂いのするテーマ曲(『嗤う女』)  
・本作で一番盛り上がるシーンかもしれない、特車二課(カーシャと大田原以外は及び腰)がテログループのアジトになっている廃工場へ突撃する一連のシーンを彩った10分近くに及ぶ大曲。緊張感をはらみつつも、どこかコミカルな味わいもあるアクション曲(『 突入 вторжение』)

の2曲です。本作を代表する楽曲になっていると思います。


正直、本作の映像とストーリーはわざとでしょうが、『P2』からの焼き直しや引用が多く、「これは単独の作品としては、どうなんだろう?」と首をひねりました。本作は特車二課が「灰色の幽霊」と名付けられた戦闘ヘリに立ち向かう映画です。しかし筆者には押井監督が、『P2』という自身の過去の栄光(=亡霊)に戦いを挑み、見事に玉砕した記録映像のように思えてなりませんでした。
一方、音楽の方は、『P2』を一部継承しつつも、決して呪縛されることはなく、自由闊達に独自性を発揮していたように筆者には思えました。

残念ながら早くも興行的失敗がささやかれる本作ですが、是非、劇場公開が終了する前に、劇場の優れた音響で、川井さんが『P2』の亡霊といかに戦い抜いたかを、皆様の耳で確かめてみて下さい。


【追伸】
27分に及ぶシーンを追加した本作のディレクターズ・カット版(以下DC版)が10月10日に公開されることが、先頃発表されました。
劇場公開中に、その長尺版の公開が発表されるのは、異例の事態で色々と憶測を呼ぶところですが、けんじけん的に気になるのは「追加シーンの音楽はどうなるのか?」です。過去の実例を挙げると、

1)オリジナルの作曲家が新曲を書き下ろした(『スターウォーズ 特別篇』)
2)オリジナルの担当者とは別の作曲家が新曲を書き下ろした(『アビス 完全版』)
3)新曲はなし。オリジナルの作曲家が別のシーンのために書いた曲を流用(『エイリアン2 完全版』)

というパターンがありました。
まっ、さすがに2)のように、川井さん以外の作曲家の登板はないでしょうね(苦笑)
例に挙げた作品はどれも劇場公開版とDC版の制作までの間に、それなりの年月を経ていました。
しかし本作の場合は、そういう年月の隔たりがありません。ですから、DC版の完成後、それを短縮する形で劇場公開版が作られたと考えるのが自然です。音楽もまずは長尺のDC版に合わせて作曲・録音されたのではないでしょうか?
後でDC版の追加シーンのために、演奏家たちを改めて集めて録音するのは不経済ですから。
だとすれば本作のサントラには追加シーンのための楽曲が収録されていないことになりますね。何年かしたら追加シーンの楽曲を収録した『完全版』のサントラが発売されたりするんでしょうか?
……とまぁ気になることはありますが、とりあえず今からでも劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか? 現在の劇場公開中のバージョンを観ていないと、DC版でどこが追加されたか分かりませんからね!!
もうこうなったら骨までしゃぶられようではありませんか(苦笑)


【追伸2】
邦画で初めてドルビーアトモスを採用した本作ですが、TOHOシネマズ六本木ヒルズにて5月22日まで限定で、ドルビーアトモス上映されます。「どうせ観るなら最高の音響で」という方は是非どうぞ。

★TOHOシネマズ六本木ヒルズ上映スケジュール
 http://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/009/TNPI2000J01.do