けんじけんブログ

作曲家:川井憲次に関する最新情報を集めている憲次力研究所(けんじけん)のブログです。

吸血姫美夕(ヴァンパイア ミユ)

 たか厨@けんじけんです。
 今回のお題は、オリジナル・ビデオ・アニメーション吸血姫美夕(ヴァンパイア ミユ)』です。
 第一話の発売が1988年なので、実に四半世紀前の作品です。

プロデューサー:野村和史、三浦亨
原作・監督:平野俊弘(現・平野俊貴
原作・キャラクターデザイン・絵コンテ:垣野内成美
脚本:会川昇(現・會川昇
モンスターデザイン・タイトルデザイン・舞台設定:森木靖泰
音響監督:山田悦司
(音楽)ディレクター:塚本恵理
(音楽)録音スタジオ:観音崎マリンスタジオ
音楽制作:ポニーキャニオン
アニメーション制作:AIC
製作:創映新社、ポニーキャニオン
声の出演:渡辺菜生子小山茉美納谷悟朗ほか
全四話。各話30分 
発売日:1988年7月21日(第一話)〜1989年4月1日(第四話)

 本作のサントラは19曲収録で、全て作編曲は川井さんです。サントラのトータル・タイムは43分45秒です。
 今回、本稿を書くにあたり、久々にサントラを手に取りました。
 永遠の刻(とき)を生きる少女が主人公だけに、音楽は「哀しいムードで統一されているのだろうなー」と思い込んでいたので、憂鬱なワルツあり、渋い雅楽あり、ロックなテイストの曲ありと結構、バラエティに富んだ曲群に驚かされました。
 それでいて、一本筋が通った構成になっているのは、さすがですね。

 以下、印象に残った曲を。

 『オープニングテーマ』〜全話共通のオープニングで使用。シンセ主体の甘く哀しい調べと言いますか。神魔という、神とも悪魔ともつかない存在がいる伝奇的な世界観を、絶妙な匙加減で表現した曲です。

 『ラヴァのテーマ』〜幻想的なフレーズのリフレインが心に残る曲です。
 美夕の従者であるラヴァのテーマと名付けられているものの、実際は美夕が、小悪魔的に微笑みながら、女霊媒師・一三子を挑発したり、翻弄するシーンでの使用が印象的でした。

 『美少女・爛佳(らんか)』〜琴の響きに、男声の合いの手、途中から合流する横笛の音……完全に雅楽の世界ですね。和のテイストです。
 第二話のゲスト・ヒロインで、純和風の美少女・爛佳の為だけに用意された曲です。
 傀儡(くぐつ)人形を巡る歪んだ愛情の物語……近松門左衛門の心中ものを思わせる結末を迎える第二話を、見事に幕引きした曲でもあります。

 『闇の中の炎』〜ロックなテイストの一曲。インサートされるエレキギターの音が緊迫したムードを盛り上げます。

 『エンディングテーマ』〜全話のエンドロールで使用。透明感にあふれた、輝く宝石のようなきらめきに満ちた一曲。本編は四話で終わりですが、物語はまだまだ、これからも続いていく……何故ならば、主人公は永遠を生きる少女だから……という余韻に浸(ひた)らせてくれる曲です。


 以上、本作のサントラは、川井さん独特の世界観が、音楽的に濃密に確立された一枚と言えましょう。
 そして美夕の世界観を表現するには、川井さんの音楽は欠かせないと制作側も判断したのでしょう。スタッフを一部変更して制作されたテレビアニメ版('97〜98)でも、引き続き、川井さんは音楽を担当されることになるのですが、そちらの音楽については、また稿を改めまして。


 最後に。
 OVA版『美夕』を今回取り上げるのは、今年の初めには決めていたのですが、そんな折、声優・俳優の納谷悟朗さん(1929年11月17日〜2013年3月5日)の訃報が入ってきました。
 半世紀近い、長いキャリアを持つ納谷さんですが、ウィキペディアの出演作リストを見る限り、川井さんが担当した作品への出演は、本作だけだったのは意外でした。
 納谷さんは、本作では全話共通のオープニング・ナレーションを担当。他に、ノンクレジットですが、第一話で反物屋の主人役で、納谷さんとしては珍しい京都弁(納谷さんは北海道函館市出身)を、第四話では神魔の長(?)役として迫力のある演技を披露されています。
 古い作品ですが、もし本作をご覧になる機会があるのなら、音楽だけでなく、納谷さんのお芝居にも耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
 納谷さんのご冥福をお祈りいたします。


 ここからは余談。
 先日、映画『二流小説家』の音楽を、川井さんが担当されることが発表されました。
 原作小説では、文筆業をしている主人公が、ヤングアダルト向けの吸血鬼小説を執筆中という設定で、小説内小説として、その吸血鬼小説の断片が頻繁に挿入されていました。 
 映画化に際し、この吸血鬼小説の部分も劇中劇として映像化される……ということは多分、ないと思いますが、もしも映像化されていたら、『美夕』とは違った吸血鬼サウンドを川井さんは聴かせてくれたのではないか……? そう想像すると、なかなか楽しいものがありますね。
 映画は6月15日公開です。
 公式サイト:http://www.shousetsuka.com/