けんじけんブログ

作曲家:川井憲次に関する最新情報を集めている憲次力研究所(けんじけん)のブログです。

作品紹介『劇場版 薄桜鬼 第一章 京都乱舞』

たか厨@けんじけんです。
今回のお題は、現在公開中の映画『劇場版 薄桜鬼 第一章 京都乱舞』です。

原作:オトメイトアイディアファクトリーデザインファクトリー
監督:ヤマサキオサム
脚本:藤澤経清、ヤマサキオサム
キャラクター原案:カズキヨネ
キャラクター・デザイン:中島敦子
音響監督:ヤマサキオサム
音楽プロデューサー:西村潤
キャスト:桑島法子三木眞一郎森久保祥太郎大川透ほか
公開日:2013年8月24日

筆者が最初に「映画『薄桜鬼』の音楽を川井さんが担当」と聞いた時、やらかしたのは「へー、『薄桜鬼』も『るろうに剣心』みたいに実写映画化されるんだ〜」という「勘違い」でした。
最近、アニメやマンガの実写映画化がよくありますしね。
ところが詳しい話を聞いてみると、実写化ではなく、テレビアニメ版のメイン・スタッフ、キャストが、ほぼそのまま移行し、完全新作の作画で映画化というではないですか。
テレビアニメ版を見ていた筆者の脳裏には、当然「あれ? でもテレビの音楽って、川井さんじゃなかったよね?」という疑問がわき起こりました。 
……テレビアニメ版に川井さんが不参加で、劇場版に川井さんが登板というと、川井ファン的には、『逮捕しちゃうぞ』が真っ先に頭に浮かびます。ですが、『逮捕〜』の劇場版('99)はテレビ版とは繋がりのない別個の話(ぶっちゃけて言うと、押井監督の劇場版『パトレイバー』二本にかなり影響を受けた話)なので、「それもありかな」と思えました。


しかし本作は、圧縮展開ながら、基本的にテレビ版とストーリーの流れは同じ。メイン・スタッフも同じ。
テレビ版と同じストーリーを再構成した劇場版で、音楽担当者が変更になった例は、筆者としては『科学忍者隊ガッチャマン』で、テレビ版のボブ佐久間氏から、劇場版で、すぎやまこういち氏へと変更になった例ぐらいしか、思い浮かびません。 
何故、川井さんの登板となったのか、理由は幾つか考えられますが、所詮は根拠のない推論に過ぎませんので、こちらに書くのは差し控えます。
ここは素直に、川井さんの新たな作品が誕生したことを言祝(ことほ)ぎましょう。


さて。
ゲーム『信長の野望』シリーズ、映画『怪談』『さくや妖怪伝』『跋扈妖怪伝 牙吉』、テレビドラマ『塚原卜伝』、アニメ『書家』など、時代劇ものの経験も豊富な川井さんですが、幕末もの、それも超メジャーな新撰組をメインに扱った作品を担当されるのは意外や、本作が初めてですね。
新選組を扱った映像作品には、これまで渡辺岳夫氏、佐藤勝氏、久石譲氏、服部隆之氏など錚々(そうそう)たる顔ぶれの作曲家さんたちが関わってきました。
その中に、川井さんも加わるのかと思うとファンとしては感無量ですね。 


音楽的には、本作は冒頭、京の町角で、危機に陥った主人公・雪村千鶴が、新選組土方歳三に命を救われる緊迫したシーンから、聴かせどころ満載でした。 
特徴のある弦の響きによる、哀愁のあるメロディから、一転して、緊張感を含んだ音楽に。男性コーラスが加わって、千鶴を襲う異形の者の脅威を表現、そこへ笛の音と共に、土方が登場し、異形の者を斬り伏せ、千鶴を救うまでのシーンを一気に音楽は駆け抜けていきました。
フィルムを観て、場面に合わせた曲を作るフィルム・スコアリングにより、川井さんの才腕が遺憾なく発揮されていたと言えます。
新選組と言えば、有名な池田屋事件のシーンも発端から終結まで10分近くはあったと思うのですが、音楽は流れ続け、シーンに合わせて千変万化の色合いを見せて(聴かせて)くれます。
新選組の屯所での会議の場面から、既にして音楽は緊張感をはらみ、不逞浪士の探索に京を駆ける新選組隊士たちに、音楽は寄り添い続け(ここで現実音である、祇園の山車のお囃子の音が前面に出て、音楽が聴き取りにくい場面があるのはやや残念)、やがて舞台は池田屋に移り、壮絶な斬り合いが始まると、音楽は一気に盛り上がり、画面を引き立てます。そして池田屋に飛び込んだ千鶴に、「ある出来事」が起こり、それを物陰から土方が目撃するところで、ようやく曲が終わります。ここまでで一曲です。
川井さんとしては、曲を何曲かに分けるという選択肢もあったでしょう。が、池田屋事件の顛末を、一曲で通したことにより、観客は緊張感が途切れることなく、作品世界に没入できたのではないでしょうか。
しかし長時間の曲で、しかも秒単位で画面に音楽をシンクロさせるのですから、作曲作業は相当大変だったと思われます。


本作を未見の方には、ネタバレになりますので、「どのシーンにどんな音楽が」と詳述するのは、ここまでとしますが、池田屋事件のシーン級に長い曲はこの後も、何曲かあります。笛、琴、鈴など和のテイストの音、そしてコーラスが巧みに組み入れられた曲もふんだんにあります。本作は音楽的にかなり聴き応えのある作品となっていると言えましょう。
劇中、何度か「聴き慣れない不思議な音色の弦の音がするなー」と思ったのですが、エンドロールを見たら、モンゴルの民族楽器である馬頭琴(=モリンフール)がクレジットされていたので、多分、これの音色でしょうね。こちらの音もお聴き逃しのないように。
尚、エンドロールはテレビ版にも参加した、吉岡亜衣加氏歌唱の主題歌で、これは残念ながら川井さんの作曲ではありませんでした。でも、その後に川井ファンへのご褒美が待っています。場内が明るくなるまで,席を立たれませんように。


最後に。このブログで川井さんの新作を最近、紹介する度に、嘆いている気がするのですが、本作もやはり現時点ではサントラの発売予定がありません。
ところで筆者は8月末に、新宿バルト9で本作を鑑賞したのですが、入場の際、アンケート用紙を渡されました。
「劇場版『薄桜鬼』関連で欲しいグッズはありますか?」という質問がありましたので、もちろん「サントラを出しましょう。サントラを」と書いておきました(笑)
もしも、これから本作をご覧になる方で、「音楽がいい!」と思われた方は是非、アンケートに「サントラ希望」と書いてみてください。
皆さまの清き一票がサントラ発売に繋がるかもしれません。
よろしくお願いします。