イメージ・アルバムの世界〜『ドラゴン・フィスト』
たか厨@けんじけんです。
前回は、川井さんが80年代の終わりから約10年の間に手掛けられたイメージ・アルバムの一覧を肴に(?)、「イメージ・アルバムとは何か?」について、考えてみました。
結局、個人的な結論は、「イメージ・アルバムとは、まだ誰も音で、その作品の世界観やキャラクターを表現していない無人の荒野に、果敢に切り込んでいく切り込み隊長みたいなもの」というところに落ち着きました。
今回は実際にイメージ・アルバムを一枚取り上げて、詳述してみます。
『ドラゴン・フィスト オリジナル・アルバム』は1989年6月21日に発売されました。
原作は片山愁氏のコミック。こちらは現在、全14巻、番外編1巻を以て完結しています。が、本アルバムの制作時、原作はまだ単行本2冊を費やして、第一部が完結を迎えたばかり。よって本アルバムは第一部=『冬香編』をモチーフに作られています。
〔第一部のあらすじ〕
中国の奥地で、人知れず生活を営む、人ならざる力を持った白竜一族。その長の一人息子・嶺飛龍(リン・フェイロン)は、ある禁忌を犯し、一族から追放の憂き目に遭う。
日本へと渡り、地方都市の高校に転入する飛龍。
だが、生粋のトラブル・メイカーである飛龍に安息の日々は訪れない……。
謎の学生たちに拉致されようとしていた女生徒・交野冬香(かたの・ふゆか)を飛龍が偶然、救ったことから、彼はまた新たなトラブルの渦中に飛び込むことになる。
冬香は人には言えぬ秘密を抱えており、それ故に、ある学生組織から狙われる身だったのだ……。
果たして冬香の秘密とは? 飛龍はその拳一つで、彼女を狙う追手から、彼女を守り抜くことができるのだろうか?
本アルバムは歌4曲、インスト6曲の全10曲から構成され、川井さんはその全てで作・編曲を手掛けられています。
本アルバムのライナーの片山氏の寄稿によれば「自ら構成し、作詞、歌い手さんの指名、曲のタイトルまで決めさせて頂きました」とのこと。
「歌4(片山氏の作詞は2曲、もう2曲は水谷啓二氏が担当)、インスト6」という配分や「声優さんによるドラマはなし」という構成も、片山氏の希望でしょう。
あえて歌と音楽だけで、自作のイメージの再現に挑んだ片山氏の選択は興味深いです(ちなみに片山作品初のイメージ・アルバム『ブリザード・センセーション』にはオーディオ・ドラマ・パートがありました)
原作の格闘シーンは香港映画の影響を色濃く受けており、コマの片隅には「このシーンのBGMはジャッキー・チェーンの×××」等と書き込まれていました。恐らく、川井さんへの曲の発注でも「アクション・シーンの音楽は、香港映画風にお願いします」という注文が、片山氏から飛んだのではないか? と想像すると楽しいものがあります。
何故なら、後に川井さんが本当に、その香港映画の音楽を手掛けることになるとは、この時点では誰一人として、予想もしていなかったでしょうから……。
閑話休題。
では本アルバムを聴いて、筆者が感じたトータルな印象について。
アクション曲が2曲あり(曲のテイストとしてはカンフー・アクションものというよりは、シューティング系のゲーム音楽風ではありますが)、アクションものにふさわしい内容・曲調の主題歌あり、薄幸のヒロイン・冬香を表現したインスト&歌あり、主人公・飛龍の心情を歌った曲あり、サブキャラのイメージ・ソングありと内容は結構、盛りだくさんです。
それでいてアルバムに不思議と統一感があるのは、やはり川井さんが全曲担当されていることと、そしてアルバムの冒頭に『序曲』が、最後に『終曲』が置かれ、両曲ともに切なく透明感のあるメロディーを奏でていることが効いていると思います。
作品世界への導入と締めくくりがしっかりしていれば、間に多少、突拍子もない曲がサンドイッチされていたとしても、包み込まれてしまうといった感じですね。まさに構成の妙。
とはいえ本アルバムには幸いにというか、そういう曲は入っておりません(苦笑) 原作には若干、コメディ要素もありますが、本アルバムでは、その方面の音楽は作られておりませんので。
欲を言えば、もう少し「いかにもな中華風味が欲しかったかなー」という気分もあるアルバムです。でも、そういうのなら川井さんが音楽担当で、同じく中国から来た格闘少年が主人公の『らんま1/2〜熱闘編('89)』のサントラで、思う存分、聴けますしねぇ。
同じ年に作曲されたのに、『らんま』との棲み分け、差別化が見事にできているとも言えます。
ライナーによれば片山氏は(リップサービスもあるでしょうが)、本アルバムがいたくお気に入りで、「この音楽にふさわしい『ドラゴン・フィスト』を描き上げたいです」とまで言っておられます。
まずは幸福な出自のイメージ・アルバムと言えるでしょう。世の中には原作者に祝福されないイメージ・アルバムやアニメ版の主題歌なども存在しますので……(苦笑)
次回は本アルバムの翌年に発売され、引き続き川井さんが音楽を担当されたオリジナル・ビデオアニメ版の音楽について、語ってみたいと思います。
果たして本アルバムの音楽は、OVA版にはどのように継承されたのか、それとも継承されなかったのか……その辺りについて、書ければと。
それでは、また。