ほぼ隔週刊けんじけん

作曲家:川井憲次に関する最新情報を集めている憲次力研究所(けんじけん)のブログです。

「下手な笛」の真意とは

えすえす@けんじけんです。
今回はコミカルな川井サウンドばらかもん』のちょっとした解説をさせていただきます。川井さんの曲で特に人気が高いのは緊張感や迫力のある楽曲が多いのですが、コミカルな曲もまたよいものです。



ばらかもんのサントラCDのブックレットに「本音盤は(中略)下手な笛とプログラミングを川井憲次が担当し〜」などと書かれており、聴く人が安心して(?)リラックスして聴けるCDであることを教えてくれます。実際この「下手な笛」(<失礼)が『ばらかもん』の楽曲の特徴なのですが、実はこの笛、「下手」といいながらも緻密に計算されたものだったのです。



どのような楽器であれ、音楽をたしなんだことのある方ならばご存知だと思いますが、人は練習段階ではしばしば音を外します。そしてそのような演奏の失敗は聴く人をとても不愉快な気分にさせるものだったはずです。ところが、このCDでは「下手な笛」といいながら、音を外したときにありがちな不快感・ストレスを感じさせることがなく、むしろほほえましささえ感じます。端的な例としてはtr.12『子供の勘違い』ですが、この曲では方法論として主旋律をプロのリコーダー演奏者に任せることで聴く人に安心感を与え、川井さんはそのバックで安心して(!?)音程を外すことを可能としたのです。



ちょっと話はそれますが、むかし、けんじけんの同人誌『K-とれじゃー』の編集に参加させていただいたときに、サークル代表が本のタイトルの字題を川井さんにお願いしたことがあります。出来上がったものは見ていただければ一目瞭然ですが、じつに適当に書きなぐったような、見るだけでちょっと笑ってしまうような「下手な」字でした。ところが、この字題、実は10通り以上もの色々なパターン試し書きした上での最終稿だったのです。下書きの中には「じ」を「ぢ」と変えてみたものもあり、試行錯誤の様子がしのばれるものでした。



そういえば、ロフトプラスワンで川井さんのイベントがあったときに、司会者が川井さんに「あの面白いライナーノートは天然ですか? それとも計算してやってますか?」という質問をされたことがありました。その際、川井さんははっきりと「天然ではなく、計算です」とおっしゃっていました。



これらの逸話は川井さんの仕事への姿勢を示すもので、相互に無関係とは思えないのです。



つまり、川井さんの「下手な笛」は決して気まぐれに演奏したものではなくて、どのタイミングでどの程度まで音を外せば聞く人に不快感を与えることなく、可笑しさだけを感じてもらえるかを試行錯誤した結果なのです。それは、あたかも自然の美と人為的な美意識が調和したガーデニングのようなもので、注意深く観察しなければ、「天然」のなせる技としか思えず、職人の緻密な仕事に気づかないような類のものではないでしょうか?



最後に、このCDのコミカルな曲を挙げますが、前述のtr.12『子供の勘違い』のほか22.『島の子はいたずら好き』やtr.29『なるの嫉妬!?』などがあります。個人的な好みはtr.12『子供の勘違い』なのですが、本編ではtr.22『島の子はいたずら好き』が流れることが多かったように思います。特に第6話『よそんもん』冒頭で、なるちゃんが道ばたで貝殻を売る場面では、音楽と芝居が絶妙に調和してとても面白く、印象深いものでした。どのコミカル曲もそれぞれ異なった方法論で「下手な笛」を演出しているので、そういった観点から聴いてみるのも面白いかもしれません。