けんじけんブログ

作曲家:川井憲次に関する最新情報を集めている憲次力研究所(けんじけん)のブログです。

オススメの曲〜『さくや妖怪伝』

たか厨@けんじけんです。
去る8月30日に『渡辺宙明卆寿記念コンサート』へ行って参りました。
宙明先生は舞台に立って、挨拶をされ、短い曲ながらも指揮まで披露されました。
90歳で尚も作品を発表し続ける宙明先生のお元気な姿に感服しました。

※主催者側の許可の下、たか厨が撮影した写真です。

現在、58歳の川井さんも32年後、宙明先生のように、飄々(ひょうひょう)と活躍されているといいですね(笑)
さて、今回のコンサートでは演奏されませんでしたが、宙明先生には『妖怪百物語('68)』『東海道お化け道中('69)』という担当作があります。『妖怪大戦争('68/音楽:池野成)』と合わせて、俗に「京都大映の妖怪映画三部作」と称されています。
この三部作をこよなく愛したのが、特殊メイクアップ・アーティストとして有名な原口智生氏。氏が、古き良き時代の妖怪映画への愛情と尊敬を込めて監督したのが、今回ご紹介する『さくや妖怪伝』です(本作に登場する妖怪の一部は、大映三部作とデザインが同じ)。 

原案・監督:原口智生
脚本:光益公映
撮影:江原祥二
美術:原田哲男
音響効果:柴崎憲治
エンディングテーマ:chiaki
コンセプトデザイン:冬目景
特技監督樋口真嗣
製作:トワーニ(東芝ワーナー・ブラザース映画、日本テレビ放送網
出演:安藤希山内秀一嶋田久作、逆木圭一郎、黒田勇樹丹波哲郎藤岡弘、松坂慶子竹中直人(語り)
上映時間:88分
公開日: 2000年8月12日

あらすじ:時は西暦1704年……徳川時代。榊咲夜(さかき・さくや)は17歳の少女の身ながら公儀妖怪討伐士を務める手練れの剣士。弟として育てた河童の太郎たちと共に、富士山を噴火させ、幕府転覆を目論む妖怪どもを滅する旅に出る。


川井さんが、原口監督とコンビを組むのは『ミカドロイド('91)』『実相寺昭雄の不思議館2('92)』に続いて、本作が三作目です。前二作がオリジナル・ビデオ作品なので、本作が初の劇場映画となります。
本作のサントラのライナーへの川井さんの寄稿文によれば、監督からのオーダーは「新宿コマ劇場でお弁当を食べながら観るような感じの音楽で」だったとか。その真意は「哀しい場面では泣ける音楽を、かっこいい場面ではかっこいい音楽を」という、つまりは場面に即した音楽を要求されたとのこと。
ここで少し、話は脱線しますが、新宿コマ劇場は「演歌の殿堂」と呼ばれ、演歌歌手を座長とする公演やミュージカルの上演で有名だった劇場です(2008年閉館)。筆者も藤田まこと主演の『必殺仕事人』の舞台版のために、一回だけ足を運んだことがあります。第一部は時代劇の王道を行く舞台劇、第二部は藤田氏の歌謡ショーという二部構成でたっぷり楽しんだ記憶があります。鑑賞しながらお弁当を食べた記憶も……(苦笑)
本作も時代劇、妖怪、大胆な特撮、そして松坂慶子の歌謡ショー(笑)と趣向を凝らした作品となっており、サントラ(川井さんの楽曲は32曲収録)に収められた音楽も、痛快なアクション曲、ホラーテイストな曲、昔の怪談映画風の曲、旅情を感じさせる曲、登場人物の喜怒哀楽を表現した直球な曲などバラエティに富んでいます。随所で和楽器が使われ、音楽面からも和のテイストを醸し出しています。
本稿ではその中から筆者のお気に入りの3曲を選んで、ご紹介します。


『継ぐもの〜決意(1分32秒)』
サントラでは4曲目となりますが、実は映画では、富士山が噴火する冒頭から途切れなく流れる6分に及ぶ大曲の締めに当たる部分です。何故かサントラでは1曲が4分割されて収録されているのです。
それはともかく。冒頭の太鼓の連打が、聴く者の血を沸騰させる曲です。
映画では、大河童と対峙したヒロインが「榊咲夜!!」と名乗った瞬間、弦楽器などが合流して、曲は最高潮に盛り上がり、炎を突き破ってメインタイトルが画面に登場するという趣向となっています。この一連の流れは「いよ、待ってました!!」と声をかけたくなるような格好良さです。「このカッコいい曲に、しばらく身を浸(ひた)していたい」と思うのですが、いかんせん大河童が一撃で倒されてしまうため、曲自体はあっさり終わってしまうのが、少々残念です。


『琵琶牧々(2分44秒)』
様々な姿の妖怪たちが大挙して登場し、楽しそうに踊る幻想的なシーンで流れる曲です。ジャンジャンと扇情的にかき鳴らされる琵琶(画面では、頭部が琵琶の妖怪・琵琶牧々が自らの頭を使い、演奏しているという仕掛け)が、とても印象的な一曲です。笛などの和楽器の配分も絶妙で、その軽快で楽しい曲調は聴く者の心を弾ませること請け合いです。川井さんで琵琶をフィーチャーした曲は『らんま1/2 中国寝崑崙大決戦! 掟やぶりの激闘篇!!('91)』にもありますので、そちらと聴き比べてみるのも一興かと。
また原口・川井コンビの四作目である『跋扈妖怪伝 牙吉('04)』のために、この『琵琶牧々』の後継曲と言いますか、同系列の曲『宴』が作られています。こちらは三味線がメインの曲ですが、やはり妖怪たちが陽気に踊りまくる場面に使用されています。こちらと聴き比べてみるのも面白いかもしれません。


『黄泉の国へ〜月下の子守歌(4分00秒)』
松坂慶子演ずる土蜘蛛の女王(ひめみこ)が、人間と妖怪の狭間で、自らのアイデンティティに悩む太郎を巧みに篭絡するシーンに流れた歌曲です。曲の前半は執拗に繰り返されるシンセサイザーの幻想的な調べが耳に残ります。後半は松坂氏自らの歌唱となっており、映画館で観た時は、異様に明るい月光を光源としたキラキラと輝く独特な画面作りも相まって「松坂慶子歌謡ショーが始まった〜」と思わされたものです(笑)。曲自体は子守唄ですから、とてもシンプルな作りで、楽器の伴奏も最低限。まずは松坂氏の美声を、観客に聴かせる趣向となっています。母のぬくもりを知らない太郎の耳に、子守唄を注ぎ込み、意のままに操ろうとする女王恐るべし。歌詞(作詞は、脚本の光益公映氏)もよく聴いたら「黄泉の国」連発だし(苦笑)、本当は怖い子守唄がここにあります!!
尚、映画では子守唄は3番が披露されるだけですが、サントラにはボーナストラックとしてフルバージョンも収録されていますので、そちらも是非お聴き下さい。


以上、駆け足ながら、本作で特に印象的だった3曲を紹介してみました。


本作は今年で公開15周年を迎えました。妖怪ブームが来ている今、CGとは異なる、手作り感のある妖怪たちに本作を通して触れてみるのは、いががでしょうか? 
私事ですが、私・たか厨はこの9月19日で生誕●●周年を迎えました。
そして、唐突ですが、当けんじけんブログは2010年4月23日の開始から今年で6周年(中途半端っー)を迎えました。今後ともよろしくお願いいたします。
……できれば宙明先生同様、このブログも90周年を目指したいものですね(えー)。