ほぼ隔週刊けんじけん

作曲家:川井憲次に関する最新情報を集めている憲次力研究所(けんじけん)のブログです。

作品紹介『二流小説家 シリアリスト』

 たか厨@けんじけんです。

 今回のお題は、現在公開中の映画『二流小説家 シリアリスト』です。

製作:白倉伸一郎ほか
原作:デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』
監督:猪崎宣昭
脚本:尾西兼一、伊藤洋子、三島有紀子、猪崎宣昭
撮影:高田陽幸
音楽プロデューサー:津島玄一
出演:上川隆也武田真治片瀬那奈平山あや小池里奈黒谷友香賀来千香子伊武雅刀ほか
上映時間:115分
公開日:2013年6月15日

 原作小説は、2011年に邦訳が出版されるや、その年末の『このミステリーがすごい!』(宝島社)、『ミステリが読みたい!』(早川書房)、『週刊文春ミステリーベスト10』(文藝春秋)の海外部門全てで1位を獲得という初の快挙を成し遂げた作品です。
 映画化とその音楽を川井さんが担当という第一報を聞いた筆者は、当然の如く、ハリウッドでの映画化と思い込み、トホホ……なマイナー・ホラー映画『デス・ルーム('06)』から7年、遂にハリウッドの”メジャー作品”を川井さんが……という感慨にふけったものです(ちなみに『レイン・フォール/雨の牙('09)』はハリウッド映画ではなく、日本映画)。なので『舞台を日本へ移して、邦画としての映画化』という詳細を知った時は、正直、落胆の気持ちがあったのは否めませんでした(苦笑)


 気を取り直して、本作の音楽について。
 まず印象に残るのは、”トテントテテン”という不思議な音色が基調をなす曲です。連続殺人犯(シリアルキラー)である呉井のテーマともいうべき曲で、彼自身や彼の犯罪を象徴する事物の登場シーンを彩りました。『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊('95)』の『Floating Museum』に通じる雰囲気を持った曲で、『Floating〜』がお好きな方にはお薦めと言えましょう。本作の開幕を告げ、そして掉尾を飾る曲でもあり、まさに本作のメインテーマと言える曲です。
 それから「いよ、待ってました!!」とファンなら声をかけたくなる西田社中のコーラス曲。その哀しみの籠もったコーラスは、呉井が幸福でなかった少年期を語るシーンなど随所で使用され、耳に残ります。
 コーラス曲と言えば他に、重々しい男声合唱からなる曲も本作では使われ、これも映像に深みを与えていました。
 ピアノ好きの筆者としては、美しいメロディのピアノ曲が頻繁に流れるのも嬉しかったですね。
 主人公・赤羽が何者かの狙撃を受けるシーンのサスペンス曲も、短いながら緊張感があり、印象的でした。
 また筆者が川井さんの担当作では五指に入れる程、お気に入りの『カオス('01)』を思わせる、地を這い回るような、土俗的というか、呪術的な重苦しい雰囲気の気だるい曲が流れる場面は眼福……もとい耳福でした。
 赤羽が、話を聞きに行く女性の部屋で轟くデスメタル、彼と女子高生が会話を交わすファミレス店内を満たす現実音のBGM(ウッドベースとシンセによる変わった編成の曲です)なども、エンドロールに既成曲使用のクレジットがないので、川井さんの筆によるものと思われます。
 こんなに幅広い音楽的アプローチが行なわれている本作ですが、例によって、サントラの発売予定がありません。ううっ(涙)
 映像ソフト化の際の特典でもいいので、是非、商品化して欲しいものです。


 最後に。原作と映画の違いについて。大筋はおおむね原作通りなので、その他について。
 原作は主人公ハリーが執筆している(という設定の)ヴァンパイア小説や宇宙を舞台にしたSF小説の断片が頻繁に挿入されていて、独特の雰囲気を醸し出しています。映画で、この趣向がカットされるのは、予想していたので、これについては納得です。本筋には関係ないお遊びですし、映像でやったら、絶対冗長になりますからね。
 納得がいかなかった改変は、原作の事実上のヒロインで、大活躍を見せるパワフルな女子高生クレアの存在が、映画ではかけらもなくなっていたことです。原作では、ハリーのビジネスパートナーを自称し、煮え切らない彼の尻を叩き、積極的に事件へ関与させる現代っ娘(こ)なクレア。その彼女に相当するのが、映画では、主人公・赤羽の住む家の大家の娘にして、彼の姪でもある小林亜衣というキャラクターなんですが……。この亜衣がほとんど印象に残らない、地味な普通の女子高生キャラに改変されていたのには、大いに落胆しました。
 原作小説の魅力の何割かは、ハリーとクレアの軽妙なやり取りと、いい年をしてクレアに翻弄されまくるハリーのドタバタぶりにあったので、この改変は納得いかなかったですね。
 原作が、凄惨な殺人事件を扱いながら、どこかユーモアの漂う作品になっていたのはクレアの存在が大きいです。
 脚色の際、そのクレアのキャラをスポイルすることで、真面目一辺倒で、ユーモアがほとんどない脚本に仕上げてしまったのは大きな間違いだったと思います。脚本に4人もクレジットされている事実から、脚色が相当難航したであろうことは容易に読み取れるんですが……。
 もしも亜衣が原作のクレアを踏襲したキャラクターだったら、そんな彼女にふさわしい、ノリが良くてチャーミングな『亜衣のテーマ』(『コレクター・ユイ』にもズバリ『アイのテーマ』という曲がありますが)的な曲を、川井さんは書いてくれたかもしれないのに!! そう思うと、本当にこの改変は納得がいきません。
再映画化の際は、是非、クレアの復活を!
そしてもちろん、音楽は川井さんで!!