ほぼ隔週刊けんじけん

作曲家:川井憲次に関する最新情報を集めている憲次力研究所(けんじけん)のブログです。

3.11後を生きる 

 たか厨@けんじけんです。
 今回のお題は、現在、渋谷オーディトリウムで公開中のドキュメンタリー映画『3.11後を生きる』です。

監督:中田秀夫
プロデューサー:中田秀夫、下田淳行
撮影:さのてつろう
整音:柿澤潔
映像提供:富間根信、金崎千代美
インタビューした方々:佐々木清、佐々木マリ子、大萱生知明、家子和男、五十嵐康裕ほか、岩手県の皆様
上映時間:85分
公開日:2013年2月23日

 本作は、中田監督と川井さんがコンビを組んだ劇場用映画としては、12本目の作品です。
 中田・川井コンビのドキュメンタリー映画としては『サディスティック&マゾヒスティック('00)』『ハリウッド監督学入門('09)』に次いで3本目になります。
 
 『ハリウッド〜』『インシテミル 7日間のデス・ゲーム('10)』『Chatroom/チャットルーム('10)』と中田監督の近作3本は、「映像における川井さんの音楽の比重が低め(単純に曲数が少なかったり、既成曲が大量に使用されたり……)」な上に、「サントラが発売されない」という二重の十字架を背負っており、けんじけん的には「あぁ切ない……」と悶々とさせられる作品になっていました。
 同じく川井さんとのコンビ作が続く押井監督の近年の実写映画では「川井さんの音楽の比重が大きくなっている」……というか、むしろ音楽に頼りっきりで(苦笑)、映像的には、かなりおざなり(カタツムリのアップを延々映すとか)になっているのとは対照的な流れでした。
 閑話休題
 本作を、川井さんが担当すると発表された時も、「また曲数が少ないんでしょうね」「またサントラが出ないんでしょうね」という諦念の声が、けんじけん内であがったのも、むべなるかなでしょう。

 さて本作は、東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県を取材したドキュメンタリーです。
 だから「街の惨状に哀しい曲を流すという、いわゆる劇映画風の音楽の付け方はないだろう。『ハリウッド〜』と同様、インタビューの合間に、場面転換と言うか、息抜き的に短い音楽が数曲入るだけなのではないか?」と本作の音楽演出について、筆者は予想し、見切ったつもりでいました。
 
 が、いざ蓋を開けてみると、その予想は大いに裏切られることになりました。
 まず1分程度の長さの曲が多いですが、それでも全編を通して、川井さんの曲が12,3曲は流れます。近年の中田映画ではなかった傾向です。
 また筆者の予想とは違い、被災者の方々の証言の後半部に、あえて被せる形で曲が流れる場面もありましたし、津波で根こそぎ持って行かれた街の惨状や廃墟となったショッピングセンターの光景に、太鼓、ピアノ、哀切に満ちた女性コーラスからなる曲を流すという音楽演出も行なわれました。
 被災された方々の証言は、肉親との永遠の別れを語った、生々しいものですが、そこに女性コーラスや繊細な音楽が入ることにより、亡くなった方への鎮魂曲のように聴こえました。決して安易なお涙頂戴ではなく、被災者の方々の悲しみに寄り添った音楽になっていたと思います。

 作品の制作規模を反映してか、音楽の編成は小規模です。
 使用された楽器は筆者が分かった範囲では、ピアノ、太鼓、フルート(?)、シンセが単体で、他にストリングスが複数に、女性のソロコーラスで全てでしょうか。決して大編成ではありません。
 しかし太鼓の連打はシンプルながら、津波の猛威、恐ろしさを伝える場面で、効果的に響き、女性コーラスとピアノ、フルート風の笛の音は、被災者の方々の尽きることのない哀しみを伝えてきました。   
 
 映画の後半三分の一は、哀しみの底から、再起へと踏み出した被災者の方々の描写となります。特にタラ漁の再開と深夜の漁の場面に流れたストリングス中心の2曲は、それまで重い曲調が続いてきただけに、その明るさ、軽快さが印象的でした。

 映画の最後は、フルートで始まり、そこにピアノとコーラスが合流する、希望に満ちた曲で締めくくられます。どんな映像になっているかは、公開中の映画ですし、詳しく語るのは差し控えますが、観客が元気をもらえる映像になっています。


 現在までに本作のサントラが発売されるというアナウンスはありませんが、これは音楽単独でも聴いてみたいですね。何なら、ここ4年、サントラの出なかった他の中田作品のサントラとの合集という形でも構いませんので(過去にロバート・ゼメキスフランソワ・トリュフォー監督作品のサントラで、そういう例がありました)。
 最近の「サントラを出しても売れない!!」というサントラ不況の話を鑑みると、かなわぬ夢でしょうかね……。
 
 本作は「2週間の限定公開、しかも上映は1日1回、昼のみ」という決して恵まれた公開形態ではありません。ですが、ドキュメンタリー映画のソフト化は希ですし、本作もソフト化されないかもしれません(『サディスティック〜』と『ハリウッド〜』はDVD化されましたけども)。
 ご都合が合う方は、是非、3月8日までに渋谷へ足を運んで、被災者の方々の声に、そして音楽に耳をすませてみて下さい。

【関連ホームページ】
 http://a-shibuya.jp/archives/4767?__from=mixipage
 ※日によって上映時間が違いますので、ご注意を!!

【追伸】
 期日は未定ですが、大阪と名古屋での公開は決定した模様です。
 http://wake-of-311.net/theater.html