けんじけんブログ

作曲家:川井憲次に関する最新情報を集めている憲次力研究所(けんじけん)のブログです。

『ドラゴン・フィスト』オリジナル・サウンド・トラック

 たか厨@けんじけんです。
 前回は片山悠氏のコミック『ドラゴン・フィスト』のイメージ・アルバムについて触れました。今回はその1年後に制作され、川井さんが引き続き、音楽を担当された同作のオリジナル・ビデオ・アニメ(OVA)の音楽について、語ります。

『ドラゴン・フィスト』OVA
発売日:1991年11月8日
時間:38分 
原作:片山悠
企画・音楽プロデューサー:高塚俊紀
監督:山内重保
キャラクター・デザイン:荒木伸吾、姫野美智
作画監督:五島英次
音響監督:本田保則鶴岡陽太
オープニング・アニメ(絵コンテ):菊池通隆
オープニング・アニメ協力:A.P.P.P
声の出演:佐々木望西原久美子橋本晃一松本保典
制作:エイジェント21


 同作のサントラは全11曲で構成されています。歌が4曲で、インストが7曲、全ての作・編曲は川井さんです。

 イメージ・アルバムからサントラへという流れですと、イメージ・アルバムで提示された音楽モチーフを更に発展させ、映像用の音楽(サントラ)に仕上げるという手法が思い浮かびます。ですが、本アルバムにおいては、その手法はほとんど使われていません。アクション曲の『悲運の標的』のみは、イメージ・アルバムと同様のモチーフが用いられていますが、他の曲はイメージ・アルバムとはまた別の曲想で、新たに書き下ろされています。
 OVAではイメージ・アルバムの楽曲も使われています。イメージ・アルバムと同系統の曲を作るよりは、それはそれでそのまま使用し、サントラでは『ドラゴン・フィスト』のための新たな音楽世界を模索しようという方針だったのでしょうか。

 イメージ・アルバムでの仕事をリセットして、新たに音楽で世界観を構築するのですから、川井さんは大変だったでしょう。でも聴き手としては、また違った音楽が聴けて、興味深かったです。 


 イメージ・アルバムに引き続いて、ボーカルには橋本舞子(主題歌『lighting bolt(臥龍昇天)』)、谷口守の(挿入歌『幻想花』、ED曲『Remind Forever』)両氏が参加。
 これに村上日朗氏が新たに加わり、OVA本編では主人公・飛龍(フェイロン)の超能力が唐突に炸裂する場面で、いきなりサビの部分だけが流れる『フェイロン・パワー』を熱唱しています……が、その何というか、歌唱力がかなりムニャムニャ……で、ある意味、本アルバムで一番印象的な歌曲となってしまっています。
 ネット検索で村上氏の経歴を調べてみた処、他には、やはり片山愁氏原作の『ブリザード★センセーション('87)』のイメージ・アルバムに参加されたのみのようで、本アルバムへの起用には片山氏のプッシュでもあったのでしょうか? 謎です。


 OVAは展開が性急で、音楽は細切れ状態で使用されているシーンが多いです。だから、一曲一曲をじっくり聴かせてくれるシーンはあまりありません。
 中国の奥地にある、飛龍の故郷をイメージした曲『龍神の里』は、神秘感あふれる曲調と笛の音が印象的な5分近い曲なのですが、映像では龍神の里がほんのちょっとしか登場しないため、本当に断片的にしか使われていません。
 『不思議な転校生(2分47秒)』も川井さんお得意の軽快なストリングスを交えた、心弾むような明るい曲ですが、これもまたOVAの前半部で、申し訳程度に流れるのみで、非常に勿体ない限りです。
 川井さんが新たに書き下ろした音楽世界の全貌を知りたい方は、是非サントラを手に取ってみて下さい。

 

 最後に、OVA本編の完成度について。音楽とは関係のない話です。
 興味のない方は以降は読み飛ばして下さい。


 「監督:山内重保&キャラクター・デザイン:荒木伸吾、姫野美智」の仕事と言えば、『聖闘士星矢』の劇場版でも、特にクオリティの高い『神々の熱き戦い('88)』、『真紅の少年伝説('88)』が有名です。
 当然、本作にも自然と『星矢』のような作画のクオリティを期待してしまった筆者でしたが、鑑賞してビックリ! あまりの低劣な作画レベルに頭を抱えました。菊池通隆氏が担当したオープニング・アニメがかろうじて見られるレベルで、本編では荒木デザインの片りんも再現できていません。いくらキャラクター・デザイナーが優秀でも、肝心の作画陣がヘッポコでは、華麗なデザイン画も絵に描いた餅に過ぎないのを思い知らされました。

 脚本(ノンクレジット)も「原作コミックで2巻を費やして描かれた物語を、本編30分強に凝縮……」と言えば聞こえはいいですが、とにかく原作のエピソードをろくに取捨選択もせず、ギュウギュウに詰め込み過ぎ。原作では1週間〜数週間のタイム・スパンのある話を、本作では一昼夜の出来事にしたので、息つく暇もなく、事件が起こり、目まぐるしくて仕方ありません。

 原作ではじっくり描かれたヒロインの心理描写も、本作では圧縮展開のあおりを食らい、ズタズタ。ですからヒロインがただの情緒不安定な人にしか見えず、感情の振幅が激しすぎて、観る者は置いてけぼりです。他の登場人物たちの感情の流れも唐突で、感情移入のしようがありません。
 原作を未読の方には、ろくにストーリーが把握できないかと。
 もはや失笑するしかないジェットコースター作品と化しています。
 DVD化されておらず、観られる機会がそうはない作品ですが、もしご覧になれるなら、覚悟完了の上、ご覧下さい。