オススメの作品『不帰の迷宮・下巻』
えすえす@けんじけんです。それでは前回の 続き、『不帰の迷宮・下巻』の解説です。
正直にいって僕は困ってます。下巻の紹介は上巻の紹介以上に困難です。というのも、本来なら佳境に入るべき物語はいまだちっとも進展しておらず、音楽的にも前回紹介した千葉繁音響監督の采配が本領を発揮して迷走を極めているからです。なんといえばいいのか、音楽よりもSEに近いような気がしてます。
比較的簡単に紹介できるのは劇中歌です。まず兵頭まこさんが歌う『DON'T LEAVE ME ALONE』(作詞:丸輪零)があります。兵頭まこさんといえばOVA版『機動警察パトレイバー』のエンディングテーマ曲『100カラットの未来』(作詞:森由里子/作曲:和泉常寛/編曲:矢野立美)が有名ですが、この曲もそれに通じる雰囲気があります。同じ製作スタッフが兵頭まこさんに託すイメージの輪郭がより鮮明になります。
もう一つの劇中曲は永井一郎さんが歌う『シルバー=ロックンロール』。作詞は千葉繁さん。こちらは完全にイロモノに走ってます。
ただ下巻一番の聴き所は、やはり伊藤和典さん脚本による最終話『君よ、忘却の河を越えてゆけ!』でしょう。押井監督をして「伊藤君の最高傑作」といわしめた本作ですが、僕が推察する根拠は以下の三点です。
まず、脚本担当の3人によるそれぞれ勝手ばらばらな展開をしっかり伏線回収してまとめたことです。きっと押井監督は、自分がやりたい放題やっても伊藤さんなら帳尻をあわせてくれると思ったことでしょう。
次にはファンタジー世界とメタ現実を絶妙な均衡点でまとめたことです。最終話には兵頭まこさんによるこんな台詞があります
「日常と非日常。現実と虚構。結局、それは同じものなのよ。個人の知識や経験、世界観や常識によって、現実だ虚構だと、勝手に線を引いてるだけ。−」
過去の一連の押井作品を思い出してみても、ネタバレともいえる核心を突く発言ですね。
そして、本作のテーマ「堂々巡り(≒ループもの)」に沿ってきっちり締めくくったことです。ループものは昨今の創作では流行のテーマですが、やはり押井・伊藤コンビがその先鞭をつけたように思えますし、少なくとも彼らの作品群を抜きには論じえない分野です。
そういえば、最終話にはこんな台詞もありました。
「作曲家、河合拳、湯河原の露天風呂で溺死……」
たしか映画『Talking Head』でも同じような台詞があったような……? これもループものの一種でしょうか。