オススメの作品『不帰の迷宮・上巻』
えすえす@けんじけんです。今回は私の秘蔵コレクションより『不帰の迷宮』を紹介します。このネタ、1回で終わらせるのは惜しいので、更新を2回に分けて今回は上巻を紹介し、下巻は今後紹介します。上巻の購入価格は当時の価格で定価4,600円+税、現在の貨幣価値に換算すると20,000円*1ほどです。
脚本は押井守、伊藤和典、千葉繁3氏輪番による各回リレー形式。主演はココ(山寺宏一)、ドコ(古本新之輔)、ナレーション(土師孝也)、そして音楽はもちろん川井憲次さん。かなり豪華ですね。作品本編はドラマCD『しあわせのかたち◆水晶の滑鼠』の構成やスタッフ・キャストを踏襲した発展型ともいうべきものですが、ドラマCDやラジオドラマなどの会話劇が氾濫する現在から見ても、ひとつの頂点といえる作品だと断言できます。
上巻の見どころとしては、特に押井さん脚本の第四夜『あゝ誰か知る』が注目です。圧巻なのは、明らかにページ稼ぎ、時間稼ぎ目的の台詞が延々繰り返されるところでしょう。
「梅チュウハイにゲソ揚げ、スコッチの水割りと柿の種、上海風焼きそば10人前にシソ餃子10人前〜」
などと聴き終わるころには、こっちまで1199人前のオーダーを空で言えるほど注文の会話が繰り返されます。(ただ本当におそろしいのは、この種の繰り返しが延々最終回まで続くことなんですが・・・)
音楽的にもこの回はカラオケ回ということで特に劇中歌が豊富です。この点、『御先祖様万々歳!』に通じますが、『御先祖〜』と違って作詞は児島由美さんではなく丸輪零*2名義です。劇中歌のひとつ、『アキバーラの夜は更けて』の出だしはこう−
万世橋に灯りが揺れて
そぞろ歩けばラオックス
ラジカンあたりを流してみれば〜
・・・個人的感慨ですが、現在の秋葉原の姿からはもはや隔世の感さえあります。ただ懐かしく、曲が作られた当時にはなかった新たな感慨さえ浮かびます。 いやはや、ラジオ会館に人工衛星が衝突*3するなどとは当時誰が思ったでしょう。
また上巻では付属本の中に川井憲次さんがいつものライナーノート調のコラム『不帰の音楽』を書き下ろしてます。この作品の音楽がどのように開始され、そしてやがて文字通りの迷宮入りとなったのか。すべては本作の脚本担当の一人でもあり音響監督でもある千葉繁さんの仕業のようです。なお、企画開始当初の音楽は『Cinema Anthology』に3曲収録されています。格調高いジャズでこれだけでも十分楽しめます。
そういえば、押井守監督が本作をして「まちがいなく伊藤君の最高傑作」といったそうですが、きっと伊藤和典さん脚本の最終回「君よ忘却の河を越えてゆけ!」を指してのことでしょう。ということで次回の僕の担当回では最終回を含む『不帰の迷宮』下巻を解説します、お楽しみに。