ほぼ隔週刊けんじけん

作曲家:川井憲次に関する最新情報を集めている憲次力研究所(けんじけん)のブログです。

『トワイライトQ〜迷宮物件 FILE538』

【作曲家・川井憲次の楽曲について、色々語ってみるブログ/第61回】

1987年8月28日発売
原案・脚本・監督:押井守
キャラクターデザイン:近藤勝也
作画監督:大塚伸治
美術監督:小倉宏昌
スチル撮影:樋上晴彦
録音演出:斯波重治
声の出演:瀬川哲也、兵藤まこ千葉繁
制作:ネットワークフロンティア事業部、スタジオディーン

 たか厨@けんじけんです。
 今回取り上げるのは、バンダイ・ネットワークフロンティア事業部(現バンダイビジュアル)より発売されたOVAシリーズ『トワイライトQ』の第二話『迷宮物件 FILE538』です。
 何故、本作を取り上げたかと言うと、先日、けんじけんで「編集会議」という名のダベリをしていた時に、本作のことがちらっと話題になりまして、その時に『……そう言えば、自分はこの作品のDVDを買ったのに観てないし、しかもこれに付属しているサントラCDに至っては一度も聴いてないぞ』と気づいたからです。どうせDVDを観て、サントラを聴くならブログのネタにしちゃおう……とまぁそういう訳です。

 本編自体は発売当時にレンタルで観た記憶があるので、およそ23年ぶりの再見となりました。

 作品の歴史的位置づけにちょっと触れると、『紅い眼鏡(87年2月7日公開)』に続く押井&川井コンビの第二作であり、コンビ初のアニメーション作品となります。その割に知名度は限りなく低い作品ではないかと。
 翌年4月から『機動警察パトレイバー』の最初のOVAシリーズのリリースが始まりますので、音楽的には『紅い眼鏡』と『パトレイバー』の間を繋ぐミッシング・リンクと言うべき作品だと思います。
 スタッフワークでは、押井作品に小倉宏昌氏が美術監督として初参加。『紅い眼鏡』で押井監督と縁ができたカメラマン・樋上晴彦氏の撮影したスチールを元に美術世界を構築。この手法は後に89年の『機動警察パトレイバー劇場版』の古き東京の描写でより洗練された形で結実します。

 さて本作の内容は「上空で旅客機の不可解な行方不明事件が続発していた真夏の東京。一方、事件空域にほど近い”埋め立て地(これも『パトレイバー』を彷彿とさせますね)”に建つ寂(さび)れたアパートに、中年の親父と幼い娘が暮らしていたが、彼らの生活の一部始終は、正体不明の私立探偵によって監視されていた……」という監督お得意の不条理ものです。ほぼ全編に渡って、本作の語り手である私立探偵による独白が、例の押井節全開で饒舌にかつ延々と続きます(苦笑)。

 
 肝心の音楽について。DVDのライナーによると、音楽予算が川井さんのギャラ込みで50万程度しかなく(泣)、これではスタジオ代はおろか、ミュージシャンやエンジニアのギャラを捻出するのも難しいことから、音楽制作は主に川井さんの実家の自室(別名・けんちゃんスタジオ)で、押井監督を交えて行なわれたそうです。
 潤沢な音楽予算を背景に、大オーケストラに大コーラスで彩られた『AVALON』の音楽を重量級とするなら、打ちこみやサンプリングのコーラスが主体、家庭内手工業で(苦笑)作られた本作の音楽は軽量級と言えましょうか。
 しかし侮ることなかれ。
 音楽は前面に出ることなく、画面のフォローに徹したタイプの曲が多いものの、しかしながら『紅い眼鏡』での鮮烈なデビューから間もない川井さんの瑞々しい感性が息づいた曲の数々が披露されています。

 主題歌を含め、本作の為に用意された曲は11曲。私立探偵の正体が明らかとなる時のショック・ブリッジ的なごく短い曲以外は、サントラCDに収録されています。
 冒頭、飛行中の旅客機を襲う不可解な事態のシーンに流れる、囁くようなコーラスと刻むビートで緊迫感を盛り上げる曲『OSAKANA』からして、掴みはバッチリという感じです。
 場面が一転し、流れる『埋め立て地の小さな神様−プロローグ』は、元気いっぱいの少女を表現しつつ、ひと夏のきらめきをも表現した明朗な曲です。この曲のモチーフは『埋め立て地の小さな神様』で更に発展・昇華され、終盤、私立探偵の長い長い独白の掉尾を締めくくってくれます。
 個人的にはコーラスを交えた同じリズムが反復されながら、次第にテンポを増して昇りつめてゆく曲『調書III 四畳半の廃墟』が一番のお気に入りです。この曲は『パトレイバー』のTV版等でよく流用されたそうで、まぁ、それだけのポテンシャルを秘めた名曲だと思います。

 本作で少女役も務めた兵藤まこ氏が可憐に歌い上げた主題歌『ぐうたらなお魚』(作詞は後に『御先祖様万々歳!』も手掛ける児島由美氏)の成立の背景には、涙なしでは語れない物語があります。これはDVDのライナーに川井さんが寄せたエッセイ『Qの悲劇』に詳しいので、興味のある方は是非DVDを手に入れてお読み下さい。涙なしでは読めません(苦笑)。


 尚、本作のDVDおよび付属のサントラCDには、『トワイライトQ』シリーズ第一話である『時の結び目 REFLECTION』(監督:望月智充、脚本:伊藤和典)も合わせて収録されています。そちらの音楽も川井さんが手掛けていますので、本作の音楽と比べてみるのも一興かと思います。川井さんの作風の幅広さが実感できると思います。

 それから、このDVDのメニュー画面の為に、川井さんが不思議な色合いの新曲を提供していますので(付属のCDには未収録)、そちらもお聴き逃しのないように。

 ……以上、夏の兆しの見える5月の或る日に記す。